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 柚は思った。  そうだった。秋堵は柚が〝決断〟するよりも先に柚の決断を〝予測〟して準備していたのだ。このぐらいのことはやっていて当然だった。  柚は助けを呼ぶのは諦めて再び駆け出した。  なんとしても秋堵の管理下にあるこの研究棟から脱出する必要がある。  廊下の突き当たりに重い鉄の防火扉があった。上には見慣れた緑色の表示がある。非常口だ。  当然だが非常口の扉だけは電子制御ではない。電源を失う非常時でも脱出できるように、手動で開くようになっている。逃げ場はそこしかなかった。  柚は扉を開けた。 「柚さん、逃げないでください」  後ろの方で声が聞こえたが柚は無視して中に入った。  階段室だった。柚は転がり落ちるような勢いで階段を駆け降りた。踊り場を曲がり、下の階へ。ぐるぐると回る螺旋を繰り返す。  9階……、8階……、  7階……、6階……、  
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