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 ここはできるだけ知ったかぶりをするに限る。  そうやってはぐらかして時間を稼いで助けが来るのを待つべきだ。  だが助けは来るだろうか?  ここに連れ込まれたことを知る者はいない。  いつもぼんやりと空を見上げている宇堂が気づくとも思えなかった。  だがそのとき、バーの玄関扉をノックする音がした。  矢崎とモヒカン男はハッと顔を見合わせる。こんなところを誰かに見られたらまずい。二人は頷き合い、モヒカン男を柚の見張りにその場に残し、店のオーナーである矢崎が応対に向かった。 「なんの用でしょう?」  扉越しに声をかける。 「警察だ。ちょっと話がある」  宇堂の声だった。  柚はその声に救われたと思った。  宇堂が気づいて助けに来てくれたのだ。 「せ、センパ……」  助けを呼ぼうとする。だがその首筋にいつの間に取り出したのかナイフが押し当てられた。 「声を出すな!」  小声で命令された。 「う……」  首筋にひんやりとした刃の冷たさが伝わって来て柚は従うしかなかった。
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