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 数日後——。  宇堂は遺体が発見された路地裏に立っていた。  ぼんやりと空を見上げている。  宇堂の目には赤い風船の幻覚が見えていた。  ゆらゆらと浮かぶ赤い風船の幻を追いながら、今回のことを考えていた。  結局、殺人ではなかった。  矢崎オーナーは毎週ここででサトシンことサトウシンヤと会って違法薬物の取引をしていた。あの日もいつものように深夜に裏口に出たところ、サトウが死んでいるのを発見した。違法薬物をサトウから買っていたことがバレてしまうのはまずい。そこで矢崎オーナーは警察に通報はしたものの、サトウとの関係は否定したのだ。  サトウの死はデブリの落下による事故だったことには変わりない。  サイクロプスの判断は正しかった。  私の刑事の勘も鈍ったものだ。  宇堂はため息をつくと赤い風船の幻から視線を外し、立ち去ろうとした。  するとそこには通せんぼをするように柚が立っていた。 「センパイ、まだ諦めるのは早いですよ」  柚は宇堂の心の内を読んだかのように言った。
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