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信号が青になった。
渋谷駅前。信号待ちしていた人々が一斉にスクランブル交差点に吐き出されていく。その動きは複雑だ。駅に向かう流れとこれから繁華街に向かう流れが、あちこちから押し寄せて混じり合う。密集して混沌を作り出す。
しかし人々はぶつかることなく互いにすれ違い、赤信号に変わる頃には何事もなかったかのように散っていく。無秩序のようでいて秩序ある動き。それはまるで確立した運動方程式があるかのようだった。
世界でも有名な『混雑している交差点』ーーそれがこの渋谷のスクランブル交差点だった。日本、東京を象徴する観光スポットとなっており、わざわざ外国人観光客はこの交差点の混雑ぶりを見るためにやってくる。
その夜。そんな混沌が渦巻くスクランブル交差点の真ん中で女性が不意に声を上げた。
「あ、流れ星……」
行き交う人の流れに逆らうように立ち止まり、ひとり空を見上げる。
渋谷の空は再開発によってできた高層ビル群に囲まれていて狭い。しかも眩しいほどの照明で星が見えることは滅多にない。それなのにはっきりと見えていた。それほど強い閃光だったのだ。
その閃光は長い尾を引いて渋谷の夜空を駆け抜けていった。
そして遺体が発見された。
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