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何事かと振り返ると、離れたところに中年男が立っていた。服はヨレヨレ、髪を振り乱し奇声を発しながら周囲を威嚇するように歩いている。その手にはぬらぬらと血に濡れた包丁が握られていた。明らかに常軌を逸している。通り魔だった。
通り魔はすでに若い女性を切り付けたあとだった。
返り血を浴びている。
向かう先にはシュンがいた。恐怖のあまりポカンと口を開け動けないでいる。
私は叫びながら駆け出した。なんと叫んだかは覚えていない。とにかく必死だった。しかし通り魔はシュンの前に立った。包丁が振り下ろされる瞬間がスローモーションに見えた。
今でも後悔している。
どうしてあのとき、私はシュンのそばを離れてしまったのだろう?
そして思う。
もしもあのとき、赤い風船が割れていなければ。
いつものように青を選んでいれば。
ねぇ、シュン……。
どうしてアナタは赤い風船を選んだの?
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