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 白み始めた空に赤い風船が浮かんでいた。  宇堂(うどう)マキアはそれを静かに見上げていた。  真紅のライダースジャケットにロングブーツ。すらりと背が高く足が長い。スレンダーな海外モデルを思わせるスタイルの女だった。 「センパイ! 宇堂センパイ!」  その背中に声がかかる。  瞬間、赤い風船はフッと消えた。 「……」  表情に変化はなかったが、宇堂の瞳の奥が微かに揺れた。  宇堂は何も言わずゆっくり振り返った。  声の主は後輩の田代柚(たしろゆず)だった。お団子頭の小柄な女だ。 「センパイ、大丈夫ですか? ぼーっとしちゃって? 何か空に見えました?」 「別に……、なにもなかったわ。それで?」 「ああ、終わったみたいですよ」 「わかった」  宇堂は短く答えると、柚と一緒に規制線のテープをくぐった。
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