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朝、集団登校の班のみんなと学校へ向かって歩いていると、私の後ろのユウくんが急に「あのペンケースになりたい」って呟いた。
あの、が指しているのはあれだって、私にはすぐに分かった。道路の上を、コロコロ転がっているやつのことだ。
「なんでよ」
「ん? なんでって?」
「だって、あんな落とし物になりたいだなんて変だよ」
変だよ、って言ったら、みるみるユウくんの顔が歪んでいった。難しい顔のまま、ずんずんと歩くユウくん。びっくりして立ち止まった私。
気づいたら、班のみんなに置いていかれそうになってしまって、だから急いで追いかけた。追いかけたっていっても少し早歩きをしただけなのに、体育で長距離走をした時みたいに、胸がドキドキして痛かった。
「ご、ごめん。ユウくん!」
「僕は真面目に言ってるんだ。変だよなんて言われたくない」
「ごめん、ごめんってば!」
学校に着くまで、ユウくんの口は接着剤でもついてるみたいに、くっついて離れなかった。
たくさん話しかけたけど、何も言葉を返してくれなかった。
謝ったって、許してくれなかった。
授業中、ずーっと心がチクチクしてた。
勉強に集中しなくちゃって思うけど、ユウくんがどうして落とし物のペンケースになってコロコロ転がりたいと思ったのか、気になってしかたなかった。
「ねぇねぇ、アイちゃん。……アイちゃん?」
「え? あ、うん」
「どうしたの? アイちゃんらしくない。調子でも悪いの?」
「ううん。ちょっとぼーっとしちゃってた」
「アイちゃんでも、そんなことあるんだね」
隣の席のカナちゃんに心配されちゃった。あーあ、朝から調子が狂いっぱなし。
帰りの会が終わったらすぐ、私はユウくんのところに急いだ。
「ユウくん、ユウくん。今朝の、あの、本当にごめんね」
「ん? んー。別にいいよ、もう。気にしないで。忘れて」
「ね、ねぇ。なんでペンケースになりたいの? 教えてくれない?」
「……アイは、『星の王子さま』って、読んだことある?」
「え、ない。あ、でも、名前は聞いたことある!」
ユウくんは、お姉ちゃんの『星の王子さま』を、こっそり読んだらしい。バレないと思っていたけれど、なぜだかお姉ちゃんに読んだことがバレちゃって、読んだのならばと『星の王子さま』についてたくさん、それはもうため息が出るほどにたくさん話を聞かされたんだ、と笑う。
人間には、足がある。
草木は根を張りそこで育つけれど、人間はトコトコ歩いて行く。
好きなところに、行きたいところにトコトコトコトコ歩いて行く。
「自分で選ばずに、どこかに行くとしたら。どこにたどり着くんだろうって思った」
「……ん?」
「僕は、学校に行こうと思えば学校に行ける。でも、僕がペンケースだったら、学校に行こうとしても、学校に行けない。拾われて、連れて行かれる、なんてことがあったら学校に着くかもしれないけれど、コロコロ転がっただけではきっと着かない」
ユウくんは、何か悩みでもあるのかなぁ。
学校、嫌いになっちゃった?
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