鳥籠の天使

2/6
29人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
長い通路を抜けると、再び扉があった。 義文さまは確認するように私を振り返る。 私が深く頷くのを見ると、扉の鍵を開けた。 湿気を含んだ風が吹き出す。 青臭い緑の匂いと、様々な花の香りが混ざり合った温室特有の空気だ。 なんだ、これは?  建物の中には巨大な鳥籠があり、その中に温室が存在している。 しかし鳥籠というにはあまりにも()いている。 これでは鳥は檻の間を抜けてしまう。 大きな生き物でも居るのだろうか……私が辺りに目をやる中、主は鳥籠の扉を開けた。 ワゴンを押して中へ入ると主は内側から扉を閉じ、懐にあった小さな笛をぴゅうと鳴らす。 何が出てくるのか辺りを覗えば、少し先の茂みが揺れ始める。 そこから真っ白な塊が飛び出し、主の前で止まった。 温室の降り注ぐ日差しの中、神々しいまでに白く輝く……一人の少女。 白く長い髪が年齢を悩ませる所だが、小さな身長と平らな胸、そして幼気な顔立ちから推察するに10歳を少し過ぎたぐらいだろうか。 白い下着のような袖のない服を着ていた。 その髪色だけでも驚いたが、それ以上に私を驚かせたのは瞳の色だ。 片方は紫、もう一方は黄色の……まるで宝石のような瞳。 虹彩異色(オッドアイ)というやつだ。 猫では見たことがあるが、人間で見たのは初めてだった。 なんと美しい子供だろう。 呆気にとられていると、その子は主の隣に案山子(かかし)のように突っ立った私に気付いて、怯えたような顔を見せた。 知らない人間、しかも仮面を付けた奇怪な姿に恐怖を感じたのかも知れない。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!