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主は再び、ぴょうと笛を鳴らしてワゴンの上にあった果物を摘んで少女に差し出した。
すると彼女は私を気にするような様子を見せたものの、指から直接それを食べる。
まるで動物の餌付けのようなその行動にどことなく胸が悪くなる思いがしたが、私は黙ってそれを見詰めた。
繰り返し繰り返し、主は手づから少女の口に食べ物を入れてやる。
そうしているうちに少女の怯えは鳴りを潜め、次は興味深げにこちらを伺い始めた。
主は私に一粒の苺を寄越し、与えてみろと顎で示した。
恐る恐る差し出すと、少女は私の顔をじっと見てから小さな唇を苺に寄せる。
指を離すタイミングを逃したらしく、少女の舌が指先に触れた。
手袋をしていたために直接ではなかったが、ぬるりとした温度を感じて私は目を逸らした。
これは動物ではない、子どもなのだと実感したからだ。
食べ終えると、少女は私の周りを不思議そうに遠巻きに歩き始める。
初めて見るものに興味津々といった様子だったが、しばらくするとふいとどこかへ行ってしまった。
間もなく戻ってきた彼女は青いゴムボールを私に無理矢理手渡すと、少し離れて投げてよこせというように手を振る。
主が私に頷くので、弱く投げてやると彼女は嬉しそうにそれを取って、今度は義文さまに投げてよこした。
しばらくそうしてキャッチボールをすると、主は再び笛を吹いた。
その音で楽しそうに遊んでいた少女は投げるのを止めてしゅんと悄気た顔を見せる。
どうやらそれは終わりの合図のようで、主に促され我々は温室を後にした。
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