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静寂の檻
それから私は娯楽の時間に付き合い、笛の使い方を覚えさせられた。
少女の私に対する遠慮がなくなる頃、義文さまの入院の日が来て、その後も毎日天使の娯楽に付き合い子どもというのはこんなにも無尽蔵な体力のあるものかと呆れ果てている。
それと同時に子供相手に言語以外のコミュニケーションを使うという難しさも感じていた。
天使は主に接するよりも遠慮なく私に接する。
手から食べ物を食べる時も主が相手ならば大人しく口に入れさせるが、私からは奪い取ったり、皿の上から好き勝手に食べたりした。
愛らしい顔を汚して夢中で好きな物を貪る姿は行儀こそ良くないが、子供らしくて微笑ましい。
怒ろうにも言葉を使えないと、どのように叱ったら良いのか見当もつかなかった。
遊びに関しても同じで、主よりよく動くと思ったのか鬼ごっこやかくれんぼに似た遊びに付き合わされた。
私の胸に湧いた主への不信感は、この子を見ているとより大きくなる。
珍しいからとペットのように飼い殺される物言わぬ少女。
私や他の使用人達も欠損がある、人と違うからと生活を保証され……代わりに主への反論を封じられている。
仏のように潔白であらせられると信じていたあの方は、ただの好事家なのではないか。
物珍しい人間を傍に置いて楽しみ、反論する言葉を奪う。
気付かなければ幸せだったというのに、気付いてしまえば目を背けることが出来ない。
いや、ただ闇雲に信じているなら宗教にのめり込んでいたあの愚かな母と変わりはしない。
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