静寂の檻

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「あー、うー」 物思いに耽っていた私の服の裾を天使が引いた。 不安そうな顔をしている……どうやら私を案じてくれているらしい。 小さな手でぺたぺたと身体に触れては私を見上げる様子は、どこか痛くはないかと尋ねているのだろう。 私は胸が詰まった……この子はまだ自分の不幸を知らない。 無知という楽園に閉じ込められた、ある意味では天使なのかもしれない。 優しいこの子は、私が苦しそうなのを気遣ってくれているのだ。 切なくなって膝を地に付き目の前の少女を掻き抱くと、彼女はその意味がわからなかったのかびくりと硬直してから、ゆっくりと同じように私の背に手を回した。 小さな手はまだどこが痛いのか探るようにぺたぺたと私の身体に触れていたが、そのうちその小さな手が仮面に触れて大きくずれた。 醜い傷跡を見たのだろう、大きく息を吸って動きが止まる。 さぞかし怯えているのではないかと思ったが、不意に彼女は私の手を引いた。 「あー! あー!」 水辺で足を止め、水と顔を交互に示す。 顔を洗えということか?  傷痕を汚れとでも思ったのだろうか。 考えれば無理もない。 酷い傷など見たこともないのだろうから。 仕方なしに仮面を外して顔を洗って見せるが、落ちないことが不思議なようでよりいっそうまじまじと見た。 「あー、うー」 痛いのかとでも問うような、悲しげな顔を見せる。 大丈夫、痛くないよ。 ただそれだけのことを伝えてやることも、安心させてやることも出来ずに私は曖昧な笑いを浮かべた。
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