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みーちゃんにもらったピンクの石は、目につかない場所にしまったまま、どこにいったのかもわからない。あたしはあの日の記憶を呼び起こすものを、無意識のうちに遠ざけていたんだろう。
(そうやってあたしは、自分だけを守って……)
うつむいたあたしの腕を離し、未和が肩にかけていたトートバッグを下ろした。さかさまに振って足元にばらまかれたのは、ふわふわした何か白いもの。その中に見えた花柄の布きれに、あたしの目が吸い寄せられた。
「バニラちゃん……?」
それはまぎれもなく、ばらばらに切り刻まれたウサギのぬいぐるみだった。胴体から切り離された頭は、目があったはずの穴から白い綿が飛び出している。
顔を上げたあたしに、未和があきれた声を出した。
「私のことも、たっくんのことも、取り上げた石のことも忘れてたのに……代わりに押しつけてきたこの汚いウサギのことは覚えてるんだね」
未和の目は、夜中の空よりも暗い。その瞳の奥に、憎しみの炎がゆらゆら燃えているように見えた。
「私、これからも黙っててあげる。ゆう子ちゃんが、人殺しだってこと」
ヒトゴロシ。その部分を未和は、あたしに思い知らせるようにゆっくりと言った。その唇が弓形にしなり、「だけど」と言葉を続ける。
「だけど……?」
「今日からゆう子ちゃんは私にさからえないってこと、忘れないでよね」
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