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そこは大人しく言うことを聞いて玄関の中へと来たが、タクミはそのまま家に上がろうとした。
「だめ! 上がらないでよ。てか、なんで家知ってるの? ストーカーなの?」
「ストーカーじゃなくてカレシだろ? そんで、調子はどうよ」
タクミは口を大きく開けて何かを飲み込むジェスチャーをしてみせた。それだけで昨日の悪夢がぶり返してきて天菜は吐きそうだった。喉元を何かが通った感覚が生々しくて泣きたくたる。
「考えたら吐きそう……」
「ま、それくらいだよな。やってるのは俺だし、天菜はなんていうか……なんていうか……拡声器みたいなもんだし」
拡声器。あの運動会とかで先生が持っていたラッパ型の機械か。
「拡声器みたいってどんな意味なの」
そこでタクミは口を大きく、出来るだけ拡声器に似せた形で開いた。表情筋が発達しているのか器用な男だ。
「拡声器わかる?」
「そこはわかってるし、今のは似てたよ。ずっとその顔でいてほしいくらい」
イケメン型なしで、ざまあみろな顔だった。
「俺の力を大きくする作用があんだよ。いわば……バイアグラ的な?」
朝から下ネタで狼狽した天菜は力なく答える。
「拡声器でわかるんで、新たな比喩はいらないから」
朝から馬鹿な会話をしている。母親が居なくて良かったと心底思っていた。
「天菜は霊を見たことは?」
「普通見えないでしょ」
あんな気持ち悪いのを日々見ていたら気がどうにかなりそうだ。
タクミは顎を擦って「見ててもおかしくないと思うんだけどな」と、首をひねった。
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