緑色①

3/15
前へ
/149ページ
次へ
「天菜のはかなり強力で、俺は随分前から天菜の存在を感じていた。そうだな二年くらい前か?」  天菜は「あ……」と、思わず声が出ていた。二年前と言ったらこの家に越してきた頃だ。両親がやっと手に入れたマイホーム。隣の県から引っ越してきていた。 「お前は俺に何にも感じない?」  ジッと見上げると、色素の薄い茶色の目が見下ろしていた。 「……変態だなぁとしか」  イケメンだとも思うが、そんなの見慣れれば多分なんとも思わなくなる──実際、変態なのが功を奏してイケメンタクミに緊張せずにすんでいた。 「ヤッてから言いなよ。まだヤッてもないうちに」  ため息混じりに言い返すあたりも、普通ではないと思った。 「さて、今日は悠長に話してる時間はないんだ。昨日のとは違って依頼をこなさなきゃならない。金がかかってるから悲鳴やら嘔吐は控えておくようにな」  玄関のシューズボックスについていた姿見でタクミは髪をサッと整えだす。サラサラの髪もやはり色素が薄い。肌も白いからそういう遺伝子なのだろう。 「俺に見惚れてないで出掛ける準備」 「え? 私も行くと思ってるの?」  あんな体験一度で勘弁してもらわないと、正気が保てなくなる。 「カラオケ代分くらい働けよ」 「いやだから、倍にして返すから」 「日当一万円」 「え……」 「拘束時間は二時間」  時給五千円。そんな割のいいバイトなんてあるのか。いやでも、あんなの飲み込むのは嫌だ。
/149ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加