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「あーねぇ、そのお宅には行ったことがあるの? 一度も地図とか見てないみたいだけど」
タクミはどうも何かに集中しているように感じていた。ジッと前を見据え大股で歩いていく。まだ二回目だが、こんなに早く歩くのは初めてだった。
「もう、見えてんだよ。ちょっと手を貸してみろ」
「あ……気持ち悪いのを見なきゃならないなら着いてからでいいよ?」
消極的な天菜の手をタクミが握った。
「気持ち悪くはない。ほら、あれ」
タクミが前方を指すと、そこには緑色の煙のようなものが見えた。
「依頼主とは会ってないけど、今回は本物だな。時々思い込みで霊が居るって騒ぐヤツもいるけど、これはアタリ」
見えたかと聞かれ、頷いた。
「緑色の煙」
「さすが俺の見込んだ女だけあるな。俺が中に入らなくても手を繋ぐだけで見えるってことは、そのうち一人で居るときも見えるようになるかも」
それは嫌だと顔を顰めると「そういう顔、いいね」と、にっこり微笑んだ。
「はいはい。私もタクミが変顔になってるときの方が好きだしね。気が合うわ」
投げやりに言って、手を振りほどいた。
「ま、イチャつくのは終わってからな。今回のは俺的に一番キライなやつだし、早く終わらせるぞ」
タクミは緑色の煙を目指して再び歩き出した。もちろん手を離したので天菜にはもう見えていない。
「深緑色のが自死なんでしょ? 今回の緑色のは?」
「今回も自死。より明るい色のほうが性質からいって良くない」
タクミはとうとうアパートの前で足を止め、上を見上げた。
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