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「三階だな。嫌だけど行くぞ」
階段を上がっていくタクミはずっと煙を見ているようで、見上げたままだった。
タクミが一番キライなやつと表現する霊が前回よりグロテスクじゃないことを祈るばかりだ。深緑色のアメーバが鮮やかな緑色のアメーバになったら、それはそれで十分気持ちが悪いような気もしなくはない。想像したら巨大なイモムシが浮かんで目眩がした。
階段を上って手前から二つ目のドアの前でタクミは止まり、迷いなくインターホンのボタンを押した。
「……はい」
中から覇気のない女性の声がした。
「除霊師です。石川さんのお宅ですよね」
タクミの声に返事をする前に鍵が開き、チェーンも外され青ざめた二十代後半と思しき女性が現れた。
いや、長い髪はバサバサで目の下のくまのせいでそう見えただけで、もう少し若い可能性もありそうだ。手の肌は天菜とさほど差がない。
「早くなんとかして!」
怯えた女性にタクミは慌てず騒がず「契約書にサイン、それと前金を頂きます」と普通の営業マンのように淡々と事務的なことを進めようとした。
背負っていたリュックを下ろそうとするとタクミの着ているシャツの胸元を女性が掴んで揺さぶる。
「そんなの後にして! 直ぐになんとかしてよ! ほら、聞こえるでしょ?」
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