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「聞こえますよ。ただね、除霊したあと霊なんて居なかったとか言い出すお客様もいるんです。ですから、先に契約書」
リュックに手を入れてクリアファイルを取り出すと石川という女性に渡した。石川さんは契約書を慌てて取り出してクリアファイルにつけてあったボールペンで震えながらサインをする。
それにしても、なかなかちゃんとした契約書だ。内容はハッキリ読めなかったが複写式になっているし、やっていることは普通の営業マンのようだった。
「前金は十五万円です。除霊後残りの半分をお支払いください」
タクミの言葉に耳を疑う。三十万円貰って天菜には一万円しか払わないつもりなのか。
「でもお金は部屋の中に……」
石川さんは可哀想なほど怯えてワンルームの部屋の奥を見る。つられて天菜もそちらを見てみたがカーテンが敷かれて隙間から光が入り込んでいるいたって普通の部屋にしか見えない。部屋が荒れてはいるが、そろそろ片付けたらと母に言われる前の天菜の部屋より幾分マシだった。
「取ってきてください。嫌なら帰ります。どこの店だって金を払ってくれない人には何もしないでしょ?」
さすがドSだけあって、容赦ない。代わりに取りに行くとかいう心遣いもないらしい。
キッと睨みつけた石川さんをタクミは冷たいイケメンのまま見下ろしていた。
「アレが消えたら全額払うから!」
「ダメです。前金、取ってきてください」
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