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全身の毛という毛が逆立った感覚、それと共に鳥肌が立つ。ハリネズミならもう戦闘態勢だ。
「あの……警察呼びましょうか?」
隣の女性が声を掛けてくれたまでは良かったが、天菜は自分の表情筋がゆるゆる動くのを感じで再び鳥肌が立つ。
「いえ、呼ばないでください。この人、運命の人なんで」
今のはどう考えても天菜の声だ。そんなこと一言も口にするつもりはないのに勝手に口は動くは笑顔になるは……。
「本当に?」
女性は怪訝そうな顔をするが、その反応は当然だ。運命の人ってなに。そんなの昭和のドラマじゃないんだから。
天菜はパニックだった。自分の体が言うことをきかない。そんなこと体験したこともないし、どうしていいのかわからない。自分の言葉でこのおかしな状況をこの女性に説明したいのに、本当に口を開くこともできないのだ。
「じゃあ、お騒がせしましたぁ」
ちょっと話し方の人格おかしいし、今度は体まで勝手に駅から離れていこうとしている。今日は大学の友人であるアユちゃんとカラオケに行く予定なのに。
足を動かすのを止めようと抗うも、なにかに邪魔をされる。それよりも体の中になにかいる感覚があってやたらと気持ちが悪い。
カタツムリに寄生するイモムシをイメージするともう吐きそうだった。宿主が生きているのにその体を乗っ取る寄生虫だ。
「寄生虫っていうな」
天菜の思考を読んで、天菜の声でそれは反論する。もう、気を失えるなら失いたい。たった数分前まで巻き戻ってくれないだろうか。
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