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賑わう駅から少し離れたところで路地へと体が勝手に向かう。背後にピタリとくっついてくるのはあのイケメンだ。
「よし、とりあえずなかなかいい出だしだ」
独り言にしては大きすぎるし、背後にイケメンがいるとはいえ、急に男口調で話しだした天菜にすれ違った若い男性が不思議そうな視線を投げてきたが、見てはいけないと思ったのか慌ててそらしていた。
今の人にこの先二度と会わずにすみますようにと祈らずにはいられない。
すると、体の中にからスルリとなにかが剥がれ落ちたような感じがし天菜はこれまで出来なかった自分の言葉で話すという普通のことができるようになった。
「ぬあ!」
とは言うものの、つかえていたものが消えた勢いで変な声が出てしまい、振り返る。イケメンを見るためではない。先程すれ違った男性を──既にダッシュで道を曲がろうとしていた。弁解の余地はないらしい。
「さて、天菜」
イケメンが天菜の名を呼んだ。
「名前! どういうこと……どういうことなの……え? 名前……、え?」
名前を教えた記憶はないし、いやそもそもさっきも思考を読んだのは──。
「あなた……私の中に……い、い、いた?」
「寄生虫呼ばわりされたな。ま、とりあえずそこに入って座って話そうか」
イケメンが指さしたビルの二階にはなんとも怪しげな「除霊師」の文字があった。釘付けになるには十分な怪しさだ。トラブルの予感しかない。
「あの……私は学生でお金はありませんし、カモっぽく見えるでしょうがそんなにホイホイ壺を買ったりしないので──」
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