その男

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 本気で去ろうとした天菜に、タクミが手を伸ばして腕を掴んで止めた。 「おいおい、タダカラオケさせると思うなよ」 「え、じゃあ払う。倍払ってもいい」  言い返した天菜の肌がまたざわついて、変態の侵入を許したことを知った。 「ちょっと! 勝手に入ってこな……じゃなくて、勝手に寄生するのやめて!」 『まぁ、いいから見てみなって。カラオケ屋の店内。受付のお姉さん』  見たくなくても勝手に体が動いて今しがた出てきたカラオケ屋の受付カウンターで電話対応している女性を見た。 「ああああ! なにあのキモいの」 『思っただけで通じるから声に出さないほうがいいよ? おかしなやつ認定されるから』  ハッとして周りを見ると、天菜の言葉につられて数人がカラオケ屋をうかがっていた。 『早く言ってよ、そういうこと。てか、あのアメーバみたいなのなに!』  半ギレで問うが、気色悪くて泣きそうだった。女性の顔周りに深緑色の巨大アメーバがついている。しかもそれは口の中にスルスルと入り込んだり、出てきたりを繰り返している。 『あれを滅するのが俺たちの仕事。俺たちってのは天菜と俺ね』 『いやいや、あれ何って聞いてるの!』 『あれはまぁまだ成長出来てない悪霊かな。弱すぎてちょっと意志が見えないけど……若い女がキライなのは伝わってくるな。深緑色のヤツは大抵自死してるヤツ。特に恨みを抱いて死んじゃうとあんなドロドロになっちゃうわけだ』  悪霊……。本当なら霊が天菜にも見えているってことだ。霊は怖いと思っていたが、実際は怖いより気持ち悪い。 『よくわからないけど、あなた除霊師なの? それなら早くやってあげて。うわ……目からも出てきてるじゃん』  ダラっと目の際から緑色の液体が出てきている。しかもそれは重力に逆らって上や横に伸びていく。
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