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飲んじゃった。あの得体のしれない深緑色のヤツを。天菜は本当に涙が出てきた。今すぐシャワーの蛇口を口に入れて水をがぶ飲みしたい。出せるものなら出したい。
『今回は金にならないようなヤツだったから、前菜程度ってことで』
内なる声にも反応したくないくらい、天菜はショックを受けていた。例えば汚物や腐敗したドロドロを飲み込んだら誰だって半狂乱になるだろう。
「泣かないで、天菜」
タクミが出ていって本体に戻ったらしく、タクミの大きな親指が天菜の涙を拭った。
「S魂が刺激されてもっとやりたくなるから」
天菜はその言葉で我に返り、タクミの頬に平手打ちをした。
「もう近付かないで!」
変態除霊師なんて金輪際二度と関わりたくない。あんなの飲み込まされて、許容できる人間がいるわけがない。
「お前、Sに暴力ふるったらあとが怖いって知らないのか?」
知るかそんなもの。もう二度と会わないのだから関係ない。
天菜は駆け出した。イケメンだろうがイケボだろうが関係ない。大学に入ってから本気のダッシュなどしたことがなかったが、今なら高校時代より良いタイムが出そうだった。
「ま、逃げても逃げられないけどな。天菜はもう俺のものだし」
逃げていく天菜の背に白い糸が煌めいている。タクミは糸に導かれるままのんびり歩いていった。
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