39人が本棚に入れています
本棚に追加
その男
スマホを見ていても感じる視線に顔を上げると数メートル先からイケメンの男が近づいてくるのを認めた。
何かがおかしい。天菜はゴクリと唾を飲み込んだ。
男は天菜を目指して真っ直ぐ突き進んでくる。まるで周りには誰もいないかのように。
天菜はその男が直進してくる理由を浮かぶ限り考えてみた。
どこかで会ったことがある。これは会っていれば忘れないようなイケメンなのでない。天菜に惚れた。それはこのイケメンが相当な地味女フェチでない限りないだろう。一番可能性があるのは宗教の勧誘。それはあり得る。それかもしれない。天菜はどこかボンヤリした人間だと思われていることが多いのだからこれだ。
「やぁ、どうも」
案の定、男は左右対称の整った顔を微笑ませて天菜に話しかけてきた。宗教の勧誘は慣れているから大丈夫だと気を引き締めて天菜がイケメンに挑む。
「間に合ってますからほか当たってください」
「いやいや。やっと見つけたからね、それは無理。早くキミの中に入ってみたいし」
天菜より、隣に居た女性がギョッとして二人を見比べたのが天菜にもわかった。天菜だって正直イケメンでもこの発言にはドン引きだ。駅前という開けっぴろげな場所で言っていいことではない。
「ちょっと……あのあっちに行かないと大声上げますよ?」
風貌的に付け込まれやすいのは知っているが、見た目よりずっと自分の意志を伝えられる天菜は怯まなかった。が、そういうギャップで最近付き合いそうなところまでいっていた杉本に振られたことを思い出して、やや気落ちする。
イケメンは天菜へ手を差し出した。
「握手しよう」
この人、ちょっと……おかしいかもしれない。視線が彷徨って隣の女性と目があった。心配そうに大丈夫かと目が囁いている。
その隙に、イケメンはダランと体の横に下げられていた天菜の手を握った。
最初のコメントを投稿しよう!