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0 わたしのために争わないで!
「どけ!!」
昼休みの、生徒一人いない学校の裏庭。
頭上から、男の声が降ってきた──否、声だけではなく、男が降ってきた。
木の上から。
「うわ!」
男は、俺を押し倒す形で着地に失敗した。
「いてて……」
見るからに不良──ツンツンとした赤髪、着崩した制服、ネックレス。おまけに高身長。
攻撃的なつり目で、ギロリと俺を睨みつけた。
「人が昼寝している真下にいるんじゃねぇよ」
低音ボイスが俺を脅すが、俺は心の中でツッコミを入れてしまう。
……木の上で昼寝なんて、いつの時代の少女漫画だよ!?
言い返したところで、女の俺とガタイのいい長身の彼では、力の差は歴然としているので黙っておく。
「……あ? なんとか言えよ」
何か言ったら、怒りがヒートアップしそうな気配がビンビンであるくせに──赤髪の不良は、俺にガンつけたまま、ぐいっと顔を近づけてきた。くそ、整った顔立ちをしてやがるぜ。イケメンは滅びろ──
……ん?
「お前、どっかで会ったことないか?」
高身長、赤髪、つり目──まただ、デジャヴだ。今日これで何回目だ?
絶対に、こいつはどこかで見た覚えがある。
俺の問いに、赤髪の不良はあからさまに不愉快そうな顔をした。
「はぁ? お前みてぇな芋くせぇ女、知らねぇよ」
「い、芋くさい!?」
初対面で失礼すぎる言い草。さすがの俺もカチンときた。
「木の上で寝てるほうがダセェだろうが! 昭和の少女漫画かよ!」
「んだとぉ!?」
鼻と鼻が擦れそうなくらいの距離でガン飛ばし合う。戦いが始まったら、どちらが勝つかは一目瞭然だろう──そんな最中だというのに、俺の中で、デジャヴがよぎっていた。
……少女漫画?
自分で口走っといてなんだが、これ、かなりのキーワードな気がする──
「……カツアゲするのは、あんまり感心しないよ──鬼塚」
一触即発の空気を切り裂いたのは──不良ほど大きくはないが、またしても長身の男子生徒だった。サラリとしたアクアブルーの髪、ピシッと整った制服、伸びた背筋。不良生徒と正反対のいで立ちの男子が、俺たちの横に立っていた。
「伊集院、テメェ、何しにきた」
赤髪の不良──もとい、鬼塚の矛先が、俺から水色ヘアの彼に向く。
伊集院と呼ばれた真面目そうな男子は、特に身じろぎもせず、慣れている様子で鬼塚の視線を受け流した。
「……何しにって、校内パトロール。お前みたいな不良生徒から、普通の生徒を守んなきゃ」
「はっ! 生徒会長様はご苦労なこって」
二人は睨み合っている。すぐにでも喧嘩が始まりそうな雰囲気だ。
──というより、もう始まってる?
「とにかく、一般生徒を不良の悪事に巻き込むなよ」
伊集院が、俺の右手を掴んで引き寄せようとする。
「はぁ!? んなことしてねぇよ! こいつが喧嘩売ってきたんだよ!」
鬼塚が、俺の左手を掴んで引き寄せようとする。
「やめろ!」
俺の声は届かない。
両側から引っ張られる力に抵抗するが、びくともしない。
「お前ら! 俺のために、争うな!」
──あぁ、どうして、こんなことになっちゃったんだ!?
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