第4章 Happy Birthday Sweet Seventeen

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「ほんと、大人びて色っぽくなったよ。もう以前みたいにお子さま扱いはできないよね」 前の座席から思い出したように口を揃えてそんなことを言われても。…わたしは身の置きどころなく、落ち着かずスカートの裾を引っ張って下げた。 「いえ。…そんなこと全然」 実際、本人としては言われるほど変わったとはそんなに思えない。身長はほとんど変わらないし、村に来てから買い物も不便だからあまり服の趣味も変化ないし。だいいち、まだ引っ越してきてから一年と経ってないよ? 通い慣れた知ってる道は早く感じる。あっという間にいつものルートを走って夜祭家に到着した。 車から降り、凪さんにうやうやしく導かれてお屋敷の玄関にたどり着く。…少しだけ警戒して中に足を踏み入れたけど。特にサプライズが設けられてる気配はないようだ。 ほっと安堵する反面、やや拍子抜け。いやサプライズは苦手だからもちろんないに越したことないが。 見たところ玄関の三和土にも、来客のものらしき靴は全然並んでいない。これから誰かやって来る可能性がないとは言えないけど。 「今日は。結局、凪さんと漣さん、水底さんとわたし。で、全部ですか?」 何か秘密にしておきたい趣向があるとしたらごめんね。と思いつつやっぱり訊いてしまった。わたしはつくづく想定外の出来事に弱い。 凪さんはわたしをいつもの客間に案内しながらこともなげにあっさり答えた。 「うん、少人数だけど。何人かあとでお祝いに参加しに来るよ。誰が来るかはお楽しみで。…柚季ちゃんはいろいろと、準備が必要だからね。まあ、ひとまずこっちで。一回ひと息入れてからね」 やっぱり。他にまだお客さん、来るんだ…。 しかもその言い方から、参加者が誰かをそれ以上詮索するのはきっぱり封じられてしまった。まあ、村の人でここで絶対に顔合わせたくないってくらい関係の悪い相手、わたしにはいないから。事前に知ったとしても別にどうってこともないんだけど。 だけど思ったより本格的に誕生日のお披露目って感じになりそうで、それは憂鬱だ。本当にいつも通り、夜祭家の兄妹と楽しくお喋りしながらご飯を頂く。ってだけでわたしには充分だったのになぁ。と思いながら、凪さんが手渡してくれたいつもの冷やした美味しい湧き水を何も考えずにそのまま素直に飲み干した。 あとのことはまるで覚えていない。すごく疲れたときにすとんと寝落ちした夜みたいに、ふと現実に返るように目が覚めた。…だけど。 頭の芯がじんじんする。普通に気持ちよく睡眠をとって、すっきり目覚めた感覚とは全然違う。無理やり何かの手段で眠らされて、いきなり叩き起こされたような感じ。 周囲がやけにざわざわして、たくさんの人の気配がする。…ていうか。ここ、どこなんだろう。 やけに光が落とされていて辺りが暗い。 だけど外って感じじゃない。六月とはいえ梅雨の真っ只中で、気温はむしろ肌寒いくらいだった。なのにここは。肌に感じる空気はぬるりと温かくて。何かの胎内にでもいるような変な心地よさがある。 …肌に。直に、触れる…、空気。 わたしはそこでようやくその事実に殴られたような衝撃を受け、はっきりと頭が覚めた。…わたし。服を、着ていない。 何も身につけない裸で。この薄暗い穴蔵みたいな空間で、両手を縛って上から吊られて。たくさんの人の目の前で身体を晒されている…。 「よ。…目が覚めたね、ようやく」 パニックで発狂しそうになりながらも、何とか状況を把握しようとその場の空間に目を凝らすわたしの視界を遮るようにぬっと現れた顔。 表情も声の調子も、いつもの親切なときとほとんど変わらない。それがかえって恐ろしくて、わたしは呆然と目の前の機嫌のよさそうな双子の顔を見上げた。 「こうして見ると。すごく素敵だよ、十七歳の大人な姿の柚季。…さあ、村のみんなに隈なく全てを見せてあげよう。スペシャルな誕生日のお祝いの始まりだよ?」 《第3話に続く》
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