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なくなった隙間
ちゅ、ちゅっ、とリップ音を鳴らしながら、キスはどんどん深くなる。唇をわって入ってきた舌に翻弄されていると、体が浮遊した。
驚いているうちに柔らかな感触が訪れる。ベッドに下ろされたのだとわかった。
「んっ」
どうしよう。こんなことになるなんて考えてもいなかったから、このまま進んでいいのかためらう。しかし熱い舌と舌を絡ませ合っているうちに、頭は働かなくなり、体に力も入らなくなった。
「ずっとずっと、こうしたいと願っていました」
やっと唇が離れ、私は大きく息を吸う。私の体に跨る乙部さんの瞳は強い熱を宿している。
いつものコンシェルジュとしてではない、男の人の顔だった。
彼は私を求めている。彼に求められている。そう思うと体温が上昇していく。
「夢みたいです」
乙部さんの綺麗な指がワイシャツのボタンを外していく。下に着ているキャミソールも捲られ、ブラジャーが晒されてしまう。
じっくり見られているのが恥ずかしく、顔を覆いたかった。
「外しちゃいますね」
レースの部分をさわさわと触れた後、背中のホックを外された。そのままブラジャーも上にずらされ、収まっていた胸がぶるんとこぼれる。
「あっ……」
「柔らかい」
膨らみを確かめるように大きな手が這い、撫でる。
乙部さんに胸を揉まれているなんて信じられない。しかし自分の吐息、布ズレの音はリアルで、生々しかった。
「ん……あっ」
突然先端を弾かれ、声がもれる。指の腹で擦られ押し込まれ、私はさらに息を乱していった。
「あっ、あぁっ」
体をくねらせると同時に、声も甘えるように大きくなってしまう。恥ずかしいから抑えたいのに自然と口から出てしまった。
「かわいい……とてもかわいいです。もっと乱れて、もっと声を聞かせて」
「んっ、はぁっ」
胸が解放されたかと思うと、ストッキングが抜き取られる。呼吸を整えているうちにスカートも脱がされ下着だけになっていた。
「あぁ、俺、待ちきれないです……でも気持ち良くなって欲しいから、慣らしていきますね」
ついに下着にも指がかかり、抜き取られる。さっそく指が触れ、押し付けられる。自分でもわかるほどぬるりとしているそこに、恥ずかしさで全身が火照った。
「気持ち良くなってくれたんですね。嬉しい……」
「乙部さん、恥ずかしい、です」
くちゅり。ついに指が押し込まれ、中に侵入してくる。
乙部さんの長い指が私の中に――。襲い来る恥ずかしさに耐え、彼の指に意識を向けた。
「あっ……ん、あっ」
「柔らかい……俺の指が飲み込まれていきます」
「っん、ふ、っ」
痛がらない私に、一本だった指は二本になり、中で蠢く。抜き差しされる度にきゅんとお腹の奥が疼いた。
「特別な関係になったのです。名前で……真史と呼んで」
「あっ、あぁっ……っん」
しばらく中を解すように動いていた指だったが、ついに引き抜かれる。
物足りなさに焦がれた私は無意識に乙部さんを見つめた。
私から体を離した彼は自分の服も脱ぎ捨てていく。ボクサーパンツから飛び出たものは既に上を向いていて、ごくりと喉がなった。
避妊具を付ける様子を眺めながら、今までも忙しなかった心臓が、どくどくともっと大きな音を刻む。
「この柔らかな肌も、赤らんだ頬も、深い優しさも、すべて俺だけが知るものです。他の誰にも渡さない」
独占欲をストレートに向けられ、胸が切なく軋む。乙部さんの手に従って足を開くと、ぴったりと腰が密着した。
早く欲しい。乙部さんと一つになりたい。私はねだるような視線を向ける。
「入るよ……」
「あっ、あっ……あぁっ」
入口に押し付けられた先端がゆっくりと入ってくる。ずずず、と押し入り、奥を目指した。
「はぁっ、熱くて、柔らかくて、とけそうです」
「んんっ、あつ、い」
「痛くないですか?」
「いたくない……気持ちいい」
「っ」
素直にそう言うと、早速動きが始まり、浅い所まで抜かれてはまた奥を目指す。その度に二人とも熱い息を吐いた。
「ん、んぅっ、っあ」
「舞……舞、かわいい」
「あ、あっ、まさふみっ」
奥を突かれた気持ち良さに耐えられず、乙部さん――真史にぎゅうっとしがみつく。私を攻めたてながら真史は嬉しそうに笑った。
「あぁっ、ん、きもち、よすぎて、私っ」
「うん、大丈夫。舞、そのまま、大丈夫だから、ね?」
「ん、ん、っは、ぁっ」
私の気持ち良さを促すように腰の動きは速く、激しくなる。襲い来る快感に耐えきれなくなった私は爪先を丸め、ついに大きく体を震わせた。
「あ、あぁっ、んぅっ」
「はぁっ、舞」
達した私に腰の動きもゆるやかになり、止まる。息を飲んだ真史も果てたみたいだった。
「舞、舞……俺だけを見て。俺だけを感じて」
ぼうっとする私に真史は腕を回し、抱きしめる。汗ばんだ肌がくっつき、隙間がなくなった。
真史からの愛や独占欲は今まで私が経験したことのないものだ。これからどうなるのかもわからない。
けれど今は、私を閉じ込める腕の中にいるのが、心地良いと思ってしまった。
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