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こんなに甘やかされてて
芳ばしい香りを吸い込み、意識が浮上する。目を開けると知らない天井が見えた。
ぼうっとしながら顔を横に向ける。するとベッドに頬杖を付きながらこちらを見ている真史と目が合った。
「……びっくりした」
「おはよう、舞。ご飯用意したけど、食べられそう?」
「おはよう……」
昨日までコンシェルジュと住民だったというのに、もう真史は恋人としての空気を完璧に纏っている。
私はまだ敬語が出そうだから、適応能力の高さに感心した。
「体は大丈夫? お風呂も入れてあるよ」
「うん、大丈夫そう……ありがとう」
何も着ていない体を掛け布団で隠しながら起き上がる。特にだるさや痛みはなかった。
漂っているコーヒーの香りに、お腹が音を鳴らす。そういえば昨日のお昼以降、何も食べていないんだった。
「ごめん、お風呂借りてもいい?」
「もちろん。有る物は何でも使って」
「ありがとう」
爽やかな微笑みはいつも通りだけど、その中に甘さを含んでいる。これが真史が恋人に向ける顔なんだと思うと、胸の奥が甘く軋んだ。
「ご馳走様です。真史、料理も上手なんだね」
「口に合って良かった」
サラダにスクランブルエッグにベーコン、パン。どれも一つ一つが美味しくて、まるでホテルのモーニングみたいだった。
また一つ、彼の完璧なところを知る。
「……真史?」
「ん? コーヒーおかわりする?」
「いや、あの……」
私が食べるのを向かい側でにこにこ眺めていた真史。しかし私が食べ終わり、食後のコーヒーを楽しんでいると、おもむろにそばに寄ってきた。
今は後ろにいて、真史のトレーナーを借りている私の体を抱きしめている。いや、抱きつかれていると言った方が近かった。
「……なんか、こんなに甘やかされてていいのかなぁ」
誰に言うでもなく自然とこぼした呟き。目が覚めたら朝食もコーヒーも用意されていて、お風呂も借りて、体には大きなトレーナー。そして密着している熱。
昨日の傷をうめるくらい、たくさん甘やかされている。
「俺が舞を甘やかしたいんだ。今までたくさん傷ついてきたんだから、たくさん甘やかされるべきなんだよ」
私の首筋に顔を埋めていた真史は、少し体を離し、顔を上げる。私を見つめる瞳は甘えて欲しいとねだっていた。
なんとなく、自然と体が動き、唇を寄せる。軽く触れ合わせ、甘えるように押し付けた。
「っ、舞……?」
「なんか、したくなっちゃって……嫌だった?」
駄目だっただろうかと窺うと、目を大きくした真史は動きを止めた。じわじわと頬に広がっていく赤色に私も驚く。
昨夜なんて何度もキスをしたのに私からの不意打ちで顔を赤くする真史に、胸の奥がきゅんと縮んだ。
「嫌じゃない……嫌じゃなくて、嬉しい。だからもっとしよう?」
「え? んっ」
今度は真史から唇を押し付けられる。さっそく侵入した舌が口内を乱す。激しいキスを繰り返しながら、二人で床に倒れ込んだ。
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