第三話

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第三話

 二人で裏庭の父の倉庫へ行くと、例のマシンはすぐに見つかった。だけどすごい埃と錆び。乗車扉がどこにあるのかすら見えないそれは想像以上のオンボロ具合だった。 「こんなんだけど本当に大丈夫?」 「起動さえできれば平気だと思う。」 「何か記憶が戻ったの?」 「ううん全然。でもわかるの。体が覚えてるっていうのかな。わからないけど私やっぱり乗ってたんだと思う。」 「えっ、じゃあ君タイムライダーってこと?」 「そう呼ばれる人しかタイムマシンに乗れないのならそういうことになるね。さぁ乗り込んでみましょう。」  そう言って彼女が右足で機体の下の方に触れると扉がゆっくりと開いた。 「すごいや。錆びまくりなのにちゃんと開いたね。」  中は思ったより広い。彼女は操縦席に座りポチポチといろいろなボタンを押していく。  するとしばらくしてからヒューンという音がして、機体のあちこちに灯りが灯っていった。 「よかった!ちゃんと起動したわ!旧型だけどすごく性能は良さそう。初めて作ってこれなんてルーヤのお父さんってかなりレベルの高いエンジニアだったのね!」 「そうみたい。これをまた起動する日がくるなんて父さんも喜んでると思うよ。」  ミアが出してくれた操縦席の後ろの席に座りベルトを装着する。 「よし、準備OK。だけどどこへ飛ぶつもりなの?」 「最初から大きな時間移動はさすがに危険だし、とりあえず試しに5年後、2100年までいってみようか。」 「なんかミア生き生きしてる。君って本当にタイムライダーだったのかもね。」 「そうね。マシンの操作は全部思い出したわ。このまま自分のことも思い出せそうな気がする。」 「それはよかった。よし、じゃあ行くか!5年後の世界へ!」  僕らはぴったり5年後、家の裏手にある人工森の中に目的地を設定し、違法なタイムトラベルへと出発した。 〜〜〜〜〜〜 「無事到着!!移動成功よ!上手くいってよかったぁ!」 「お疲れ様。タイムトラベルってこんな感じなんだね。もっと酔ったりするものかと思ってたよ。」 「初フライトは吐く人結構いるよ。この機体が優秀だからかも。」 「いや、君の技術がいいんだよきっと。」 「ふふ、ありがとう。」  出発からずっと沈黙で緊張感しかなかった空気は一転。僕らは無事到着した安堵感から一気に呑気な会話を交わしていた。 「どうする?せっかく来たんだしちょっとだけ街の方に出てみない?」 「そうね。知り合いにはなるべく会わないように気をつけていきましょう。」  未来に恐怖なんて微塵もなかった。いろんな人の未来で見ていたから、僕は5年後の世界をすでに知っている。2100年と言ったらたしか仲のいい友人クレイの結婚式がある年だ。それからなんといっても有能な技術者で僕の大親友でもあるマクスが腕を買われて大抜擢された大きなプロジェクトの達成の年。国のシンボル「ヒカリの塔」の隣に、新たなシンボルとなるもう一本の塔が完成してる頃だな。  仮に未来が見えていなくても5年後なんてそんなに大きく何かが変わっているはずがない。これはとりあえずのお試しフライトだ。  降り立った人工森を抜ければすぐに僕の家がある。25歳になった僕ってどんなだろう、少しは大人の魅力が出てる頃だろうか。そんな馬鹿げた期待はすぐに打ち砕かれることとなった。 「…ねぇミア。あれ僕の家だよね?間違いないよね?」 「えぇ。場所的にはそうだと思うんだけど…」 「……なんだよこれ。真っ黒でほとんど何もない。」 「5年の間に一体何があったのかしら。」 「何だよ。おかしいよ。僕の家がどうしてこんなことに。僕はどこへ行ったんだよ。まさか死んだのか?」  いや。そんなわけない。冷静になれ。僕は生きてるはずだ。10年後も20年後も、僕が見た友人達の未来に僕はちゃんと存在していた。家だってそうだ。たしかマクスが僕の30歳のお祝いにハイテクな地下部屋を作ってくれるはずなんだ。それなのに家そのものがないなんて。絶対におかしい。 「ルーヤ、大丈夫?」 「おかしいんだ。僕が見た未来と違う。今までそんなことなかった。全て僕が見た未来通りになってきたのに変だよ。」 「よくわからないけど、未来が変わってるってこと?」 「早く街の方に行ってみよう。」  街の中心部へ進むほどに違和感。なんだろう、街自体の雰囲気もなんだか違う。  そして僕はすぐに一つの大きな違いに気が付いてしまった。 「…!!塔がない!ヒカリの塔がないよミア。あれはこの街だけじゃなく、この国の大切なシンボルなんだ。それがないなんて絶対ありえないよ。」 「あの巨大な塔よね?確かに街のどこからでも見えてたのにどこにもないわ。」 「壊されるなんてこと自体絶対ありえないことだけど、もし5年の間にそうなったとしてもあんなに巨大なんだから跡形くらいあるはずだろ。」 「確かにそうね。」 「本当ならこの年には、その隣にもう一本新しい塔が立ってるはずなんだよ。2本の塔が並ぶ姿を僕はマクスの未来で見てる。」 「2本目の塔はなんらかの理由で建設中止や延期になった可能性も考えられるけど、国のシンボルが跡形もなく消えてるのはさすがにおかしいわ。時空が歪んでいる?まさかね。ねぇ、ここより少し先の時代にも行ってみない?」 「あぁ、そうしよう。そうだあのマシンは古いから誤作動で違う時代に飛んだんだ。きっとそうだよね。ここは2100年じゃないんだきっと。」  タイムマシンに戻るまでの間、僕はずっと混乱した頭にそう言い聞かせていた。
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