第二章 皇子の初陣で

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「とにかく、あんたは運が良かった」  二人が黄泉の使者の存在を知っていたからこそ、意識的に死を回避する方へ向かった事で命を落とさずに済んだ。  しかし厩戸の父のような病気や怪我は身体(しんたい)に対しての死期のため、きっと同じような手は使えないと少女は言いたかったのだろう。そう厩戸は勝手に理解する。  あの得体の知れない黒い影は、死期迫る者に取り憑いても必ずその命を黄泉の国に持ち帰るというわけではない。  死のキッカケとなる瞬間の選択によっては、大人しく手ぶらで戻っていく事もあるとは、想像すらしていなかった。  だから黄泉の使者、と少女は名付けたのか。  長年、見える割には不明点が多かった黄泉の使者に対して理解が深まったと同時に、見える人物に初めて出会えた事は厩戸にとっても得るものが大きい。  それどころか、自分に黄泉の使者が取り憑いている事も気付かず今頃死んでしまっていたと思うと、目の前にいる少女は間違いなく見える者同士の仲間であり、命の恩人。 「おい皇子、もうすぐ日の出だからそろそろ……」 「……名前」 「え?」 「お前の名前……を、知りたい」  今宵の出会いをこの場だけで終わらせたくなかった厩戸は、無意識のうちに少女の名前を尋ねていた。
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