WHite rOom

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 病気になったから、わたしはこの部屋で暮らしている。そう、先生に聞いた。  先生は、髪の半分が白いおじさん先生で、くたびれた白衣を着て、いつも疲れてそうな顔をしていた。先生は朝と昼と夜の食事の後に「くすり」を持って部屋に来て、わたしがそれを飲むまでじっと見ている。前に、こっそり捨てたのがバレてからそうするようになってしまった。そこまでされては、わたしは観念するしかない。でも、先生が持ってくる「くすり」って、本当に苦いの。 「うげ」 「はい、よく飲めたね。えらい、えらい」  でも、くすりを飲んだ後は必ず褒めてくれる。やつれた顔をくしゃっと歪めて、精一杯といったふうの笑顔を作って。意外とかわいく笑うので、わたしは先生に褒められるのが好きだった。 「ねえ、先生」 「うん?」  部屋を出ていこうとする先生の背中に声をかける。 「パパとママは、いつお見舞いに来てくれるのかしら?」 「うーん……」  先生は白髪交じりの頭をバリバリ掻きながら振り返り、わたしの後ろの壁を指さした。  わたしが暮らしている部屋は、四方を真っ白な壁に囲まれている。天井が高く、ちょっと大きな声を出すとよく響くくらいだ。そして、先生が指さした背後の壁も高いのだけど、その上の方に、部屋で唯一のガラス窓がある。といっても、窓の向こう側は薄暗い部屋になっていて、外の景色が見えるわけではないのだけど。 「君は大変な病気だから、ご両親が来てくれても、あの面会室から様子を見るだけになってしまうけど……」 「それでもいいの。顔が見えるだけでもいいの。前に来てくれてから、もう一カ月よ。あの時よりわたしも体調がいいのだし、そろそろ来てくれてもいいんだけど」  先生は「うーん」と唸りながら、わたしが座っているベッドの側まで引き返してくると、腰を落として目線を合わせてから言った。 「ご両親のお仕事が忙しいのは君も知っているだろう? さみしいのは分かるけど、ご両親が働かないと――」  わたしの治療費がとても高いのは知っている。パパとママが忙しいのも、それを稼ぐため。先生はハッキリとは言わないけれど、そう言いたいのは分かった。彼は困ったような顔をして、また頭を掻いていた。 「先生がそんな顔をする必要はないのよ。ごめんなさい。ワガママを言ってしまったわ」 「いや、いいんだ。ご両親に会いたい気持ちは当然のものだ。君が謝ることはない。でも、そうだね……。僕のほうから、ご両親に話をしてみるよ。君が会いたがっていると」 「うん。ありがとう、先生」  わたしが笑うと、先生も笑った。あの、精一杯の笑顔で。
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