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「あれ、戸森が追いかけてったけど」
伊織がビールを飲みながら言う。陽向は灯と一緒に庭先で何やら話し込んでいる。
「うん、スーパーで会ったよ」
「パスタ作るなら、粉チーズも必要だ、とか言って」
「うん」
「なんだよ、うんって」
「なんかさ、こうしてると、あの頃と変わんないように思えるのに、なんかやっぱり違うね、私たち」
戸森は高校時代から変わらずきっと今でも青子のことが好きだろう。庭にいる陽向と灯の背中にも、つい陽向と杏奈の背中を重ね合わせてしまう。変わらない、ように見える。でも、私たちは大人になり、数年間違う人生を生きて、別の人間になっている。
それに、あの背中は杏奈によく似ているけれど、杏奈ではない。このぎこちなさとどう向き合えばよいのだろう。
陽向は灯に会うためだけに今日ここへ来たみたいに、私たちとはほとんど会話しなかったし、新条ヶ崎ホールディングスのことを誰も話題にしなかった。
ついに例のアカウント「7」が「”the List”のコピーを持っている」と言い出したのは数日前のこと。もしもそれが本当だとして、新条ケ崎ホールディングスが絡んだと思われる失踪者や死亡者のリストが実際に公開され、さらにその関係性が示されでもしたら、さすがに今までのように「ネット上のデマ」として受け流すわけにはいかなくなるだろう――だが、多くの期待に反して7はなかなかリストを公開しなかった。
買い出しから戸森は一人で戻ってきた。青子は今日はひとまず帰ったのだという。さっきの様子を見れば無理もなかった。
このメンバーで集まるのが最後だとは、このとき、思いもよらなかった。
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