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「戸森が、あんなふうに言ってくれて、あいつ、何様だよって感じだけど、正直嬉しかった」
「青子……戸森とは」
私が言いかけると、ピーナッツバターサンドに口をつけた青子がパッと顔を上げる。
「戸森が何?」
「戸森とは連絡取れてる?」
「取れてるっていうか、ちょっとだけ電話したよ。ここ数日は私も忙しくてできてないけど。あ、でも、そういうんじゃないから……大体戸森はそういう対象じゃないっていうかあ……」
「戸森と連絡が取れないの」
「へ?」
私の言葉に青子が今度は顔をしっかりとこちらへ向ける。
「会社にも行ってないみたいで。伊織から連絡きて、戸森のお母さんと今いろんなところあたってる」
池の向こうの雲がどんよりとし始め、カメラマンの男性が不安げな面持ちで空を見上げる。
「何それ。そんなはずない。だって戸森普通だったし、電話したとき」
「何か話した? 戸森と」
「何かって……他愛もないこと。今度焼肉おごって、とかそんなこと。電話してみる、今。私の電話出なかったら許さないから」
青子はすぐにスマホを耳にやる。怒った表情から、少しずつ、絵の具を混ぜたみたいに顔が崩れていくのがわかる。そのまま、スマホを滑らせるようにガクンと肩を落とす。向こうで、カメラマンの男性が手を振って呼んでいる。この間と同じ、太田という人だ。
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