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「おおい、青子ちゃあん。そろそろ再開するよお」
にやついた笑みを浮かべる彼の声を無視して、青子は立ち上がり反対方向へ歩いていく。
「え、青子ちゃん、待ってえ」
走り出してくる彼に「すみません。今日はこれで」と、私はサンドイッチとコーヒーを手渡し、なぜか代わりに頭を下げて、寒空の下、パックリと背中の開いた衣装の青子を追いかける。
テーブルの下で、青子が貧乏ゆすりをしているのが伝わってくる。
「凛ちゃん。なんかカーディガンとか持ってる? ちょっと、他のお客さんの注目集めちゃってるから」
晴夫さんが困ったような顔で言う。青子の服装の露出度が高すぎて、確かに目を引いている。私は「すみません」と小さく謝ってからゆったりとしたジップ開きのフードパーカーを裏から取り出してきて、青子に渡す。
「はい、これ着て。お腹空いてるんじゃないの?」
今日のランチメニューを指さして尋ねても、青子は心ここにあらずな様子で「うん」とだけ小さく頷く。仕方ないのでとりあえず温かいコーヒーを淹れる。
夕方からバイトの矢上さんと交代になるが、それまでは青子につきっきりにはなるわけにはいかない。戸森がいなくなったことを告げて青子がここまで動揺するとは正直予想できなかった。コーヒーを飲んだら、青子をとりあえずうちまで送ってもらおうと、伊織に連絡しておく。
ランチ後のカフェタイムを乗り越えながらも、青子の連絡にすら出ないなんて、やはり、戸森がいなくなったことがタダゴトではない気がして、心がどこか落ち着かなかった。
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