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「お互い初対面同士で、いきなり結婚というのは」
「ああッ、そうですよね! 私、高校時代から村上さんのことを見てたから、ついっ」
「…」
赤面しすぎて汗をかき始めた女性の顔を見ながら、愛想笑いでもすればいいのか、それともまくし立てるように放たれた言葉を肯定すればいいのか分からず口元にうっすらと笑みを浮かべ佇んでいると、
「あの…っ」
と、胸に溢れる思いを世に放つため、ルビー色に光って見える唇を再び開いた瞬間、
「ねぇねぇ、おじちゃん!」
どしんっ、という体当たりと共に、スーツのズボンを後ろからぎゅっと握りしめる子供の存在に気がついた楓馬が振り返ると、
「あーそぼっ」
と大きな声でねだった子供が、前歯の生え替わり中だと分かる口元を大きく開き、目を丸くしている楓馬に向かってにかっと笑いかけた。
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