Part2 ほのか

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両足から力が抜けていく。私は彼の前にペタンと座り込むと、言った。 「カケルくん…。よかった…」 彼は怪訝な顔をする。 「ひでぇなあ。誰と間違えてんの? 俺、カケルなんて名前じゃないけど」 私は泣き笑いの顔で言った。 「ごめん…。カケルくんていうのはね、私と友達が勝手につけた名前」 案外、店の中からは外の様子が見えたものだ。彼はいつも走っていた。 「いつ見ても忙しそうに走り回っているから、カケルくんって呼んでたの」 だって、名前も知らないうちに好きになったから… 言い終わらないうちに、彼の唇が私の唇に重なった。私は目を閉じる。涙が溢れだした。 「東京に戻っておいで。今日から俺の彼女だ。ほのかちゃん」 うん…うん…。ずっと、彼女になりたかった…。 私は何度も頷いた。 溶けた雪でしっとりと濡れた彼の背中に手を回し、きつく抱きしめる。彼はもっと強い力で私を抱きしめた。息もできないほど強く…。
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