1. 一希、自称「荘周の蝶」と語り合う

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1. 一希、自称「荘周の蝶」と語り合う

 ここは喫茶Café Jorge。  このお店には、いつも誰かが集まっている。  とある繁華街──駅から続く幹線道路は車の往来が激しく、行き交う人々は世間の忙しなさに追い立てられている。けれど、一本横道に入れば、そこは穏やかな時間が流れる、落ち着きに満たされた裏通りだ。  その裏通りと、別の細道とが交差する角地に、喫茶Café Jorgeはひっそりと建っている。  濃い色の木目調で統一された店内は、古めかしい外観に違わず、慌ただしい日常から取り残されたかのような、レトロな佇まいだ。  やや近寄りがたい雰囲気ながら、ここを訪れるのは学生からお年寄りまで、実に様々だ。客層に垣根はない。  穏やかな陽光の降り注ぐ昼下がり、飴色のドアがゆっくりと引かれる。  さて、今日はどんなお客様がいらっしゃるのか……。  ──カランッ。
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