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どうも話が噛み合わない。迷子、不審者、記憶喪失──もしや警察案件か? そうでないにしろ、二番目ならお引き取り願う必要がある。
考えを巡らせる一希の前で、女性が自身のこめかみの辺りに手をやった。ちょうど、眼鏡のフレームに触ろうとする仕草だ。
彼女自身は、眼鏡をかけていないのに。
「こちら後藤 那々。フィー、ダイブ先に異常発生。原因は不明。混線している模様で、こちらでのその場修復は不可。空間からの緊急退出を──」
ここにいない誰かに向かって話し始めた彼女の指が、自身のこめかみに直接触れる。
産まれてこのかた、日焼けとは恐らく完全に無縁だったであろうその白い顔に、衝撃が走った。
「え? え? どういうこと? 私、サングラス型端末してない──イヤホンも、端末操作用手袋もないじゃない! 嘘、何で? フィー、応答を──って、これじゃ連絡取れないのか。ああもう、一体何がどうなってるの?!」
急にパニックに陥り、自分の身体のあちこちを触っては騒ぐ客を、呆気に取られて眺めること二秒。
──良く分からないが、店の出入口で騒がれるのは困る。
そう判断した一希は、大股で女性に近づくと、
「失礼します」
一言断るが早いか、彼女の腕を軽く掴んで店に引き入れた。
──カラン。
再びドアベルが軽い音を奏で、冬の冷気と外界とを遮断する店の扉が閉まる。
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