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「こちらにどうぞ」
パニックの次は何やらウンウンと唸りだした那々を、一希は対面式のカウンター席に座らせる。彼自身はカウンターの厨房側に回り、水を入れたグラスを彼女の前に置いた。
「あ、ありがとう、ござい、ます。す、すすみません、でした」
座って少しは落ち着いたのか、那々は小柄な体をさらに縮め、申し訳なさそうに呟いた。最初と違って、喋り方がかなりぎこちないが、意思の疎通は図れそうだ。一希は、警察への連絡を脳内で一旦ペンディングにした。
「あの、もしお店をお間違えでしたら、こちらで目的のところに連絡しましょうか」
「あー……ま、間違えた、というか、そ、その、あり得ないというか。とにかく、行先は全然違うんだけど、そこに連絡はできなくて。そもそも固定アドレスじゃないし」
行き先が固定住所でないとは? 彼女の説明に引っかかりを覚えながらも、一希はひとまず話を進めることにした。
「……どなたか、お知り合いに連絡しますか?」
「こういう時はフィー──ええと、知人と連絡取るんだけど、取る手段が何故か全部なくなってて」
「電話ならお貸ししますよ。ネットワーク環境もありますし」
「れ、連絡先? あー、そもそも電話番号やメールアドレスは、なくて……」
「……」
ほとほと困り顔の那々だが、今の情報からすると、一希の方も八方塞がりとしか言いようがない。
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