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ただその感覚も、グラスの中の水と共に、やがて一希の意識から消えてなくなる。
水を一気に飲み干して、那々はグラスを置いた。
「お水、美味しかったです」
「ありがとうございます。メニューもどうぞ」
彼女が落ち着いたと判断した一希は、手際良くグラスに水を注ぎ、メニューを差し出す。那々はそれを、口の中で感謝を述べつつ受け取り──手にしたメニューを開いた途端、驚愕の声を上げた。
「このメニュー、決済もタップもできない!」
「まぁ、うちは個人店ですし」
フランチャイズ店や新しいカフェで最近よく見かける、タッチ式の注文システムやアプリを想定していたのだろうか。残念ながら、レトロを地で行くCafé Jorgeは、そこまで電子化されていない。
「注文がお決まりでしたら伺いますが」
「え、本当に、そんな非効率で超マイナーなアナログ式の注文なの?」
「えっと……」
これは、一般的な注文の取り方ですが。
そう言いかけた一希よりも、発声は那々の方が早かった。
「他人に口頭でオーダー取らせるだなんて、リスキーで面倒で無駄が多い。そんな注文方式、酔狂な懐古趣味的空間か伝承保全地域くらいでしか経験し得ない、絶滅危惧種みたいなもんでしょ──あ、そうか。今はまだ違うんだ」
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