1. 一希、自称「荘周の蝶」と語り合う

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 眉を寄せ、機関銃で弾幕を張るように論を展開していた那々(なな)だったが、途中で何かに気が付いたらしい。始まりと同じくらい唐突に言葉の銃口を下ろすと、おずおずと控えめな様子で、 「ごめんなさい。ちょっと戸惑って──選ぶのに少し時間下さい」 「……かしこまりました」  一希(いつき)自身、特に初対面が相手の時は、自分の会話のテンポが良くないことを自覚している。だがそれ以上に、那々の会話の緩急は独特だ。 「この方法、神在島(かむありじま)でもやったけど、情報少なくて選ぶの難しいのよね……」  ブツブツと何やら呟き、那々は難しい顔でメニューとにらめっこを始める。その黒い頭を、一希はやや呆気にとられて眺めた。  オーダーを取ろうとして「絶滅危惧種」と評されるとは思ってもみなかった。彼女の思考パターンが全く読めない──。  そこに、那々から声がかった。 「えっと、モカブレンドを一つ、ブラックでお願いします」  この選択で良いのか、若干自信なさげな彼女に、一希は目元だけの笑顔で応える。これは、もはや脊髄反射だ。 「かしこまりました」  まあ、良いか。  色々と気になることはあったが、それらを全て脇に置き、一希は滑らかな動きでコーヒーの準備を始めた。
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