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眉を寄せ、機関銃で弾幕を張るように論を展開していた那々だったが、途中で何かに気が付いたらしい。始まりと同じくらい唐突に言葉の銃口を下ろすと、おずおずと控えめな様子で、
「ごめんなさい。ちょっと戸惑って──選ぶのに少し時間下さい」
「……かしこまりました」
一希自身、特に初対面が相手の時は、自分の会話のテンポが良くないことを自覚している。だがそれ以上に、那々の会話の緩急は独特だ。
「この方法、神在島でもやったけど、情報少なくて選ぶの難しいのよね……」
ブツブツと何やら呟き、那々は難しい顔でメニューとにらめっこを始める。その黒い頭を、一希はやや呆気にとられて眺めた。
オーダーを取ろうとして「絶滅危惧種」と評されるとは思ってもみなかった。彼女の思考パターンが全く読めない──。
そこに、那々から声がかった。
「えっと、モカブレンドを一つ、ブラックでお願いします」
この選択で良いのか、若干自信なさげな彼女に、一希は目元だけの笑顔で応える。これは、もはや脊髄反射だ。
「かしこまりました」
まあ、良いか。
色々と気になることはあったが、それらを全て脇に置き、一希は滑らかな動きでコーヒーの準備を始めた。
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