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Ⅰ
「ピョンピョンストロベリー先生ももう高校を卒業したんだし顔出ししちゃいましょうよ! サイン会、きっとファンの子たち喜びますよ!」
半年ほど前に編集のお姉さんに唆されたことを思い出す。
高校入学時に漫画家としてデビューさせてもらったときから二人三脚で一緒に作業を進めているお姉さんのことを信用はしている。作品に的確なアドバイスをくれるから、この人のおかげで今の自分があると言っても過言ではない。だから、大抵のリクエストには応えるようにはしてきた。
だけど、今回はさすがに拒んでしまう。
「い、嫌です……! 顔出しなんて無理です!」
泣きそうになりながら断った。人前に出るなんて恥ずかしすぎる。
「どうしても嫌?」
現役大学生漫画家のピョンピョンストロベリーこと兎山苺花は首を大きく縦に振った。
「絶対に?」
さっきよりも大きく頷く。
「どーーーしても?」
もっと大きく頷いたから、勢い余って頭を机にぶつけて「ギャッ」と小さく呻き声を上げた。
「無理やりサイン会させたら漫画描くのやめちゃうくらい嫌?」
「……漫画は描きたいです」
机の上に頭を乗せたまま、お姉さんの方は見ずに答えた。
「でも、サイン会は絶対に嫌です……」
お姉さんはうーん、と腕組みをしながら唸っていた。そして、しばらくしてからパチンと手を叩き、ついでに苺花の頬を両手でギュッと挟みながら体を起こす。
「ねえっ、良いこと考えましたよ!」
「絶対変なことですよね?」
「ううん、良いこと」
有無を言わせず自分の主観で「良いこと」を断定されている場合、大抵のことは「良いこと」ではない。
「ピョンピョンストロベリー先生は顔出しが嫌なんですよね?」
「まあ、そうですけど……」
「なら兎のお面をつけましょう!」
「へ?」
「わたしが兎のお面を作るので、それをつけて出るんです!」
「たしかにそれなら顔は出さなくても良いですけど……」
目の前で必死に頼み込むお姉さんに根負けして、苺花は渋々オッケーしてしまった。
でも、今思えばそれは大きな判断ミスだった。お姉さんの作ったお面は可愛らしかったけど、強度があまりにもお手製すぎて、途中でゴムがちぎれてお面が取れてしまったのだから。
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