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「良いと思うよ」
苺花は無難なことを言ってノートを返した。
「本当にそう思いますか?」
「え? うん」
「わたしはそうは思えないんです……」
レナが言いにくそうに続ける。
「描いているときは凄く良いものが描けたように思えるのに、読み返したらそうじゃ無いというか。なんだか味の無くなったガムみたいに思えて……」
苺花が真面目な顔で聞いていると、レナが突然立ち上がった。
「どうしたの?」
首を傾げている苺花のことは気にせず、レナは突然その場で土下座をした。
「え? え? ちょっと、いきなり何!?」
「わたし、どうしても先生みたいになりたいんです! キュンキュンする作品が描きたいんです! だから、弟子にしてください!」
レナが先ほどよりもずっと真剣に懇願している。大きな声で土下座を始めてしまったものだから、店中の視線が一気に苺花たちのテーブルに集まった。慌てて苺花が顔を上げさせようと思い、上半身を抱え上げると、そのままレナが苺花に抱きついた。
「先生のデビュー作を読んだ時、わたしすっごい感動したんです! 先生みたいに甘くて、しょっぱくて、何が起きるのかわわからない素敵な恋愛作品が描きたいんですよぉ」
レナは人目を気にせず、ワンワン泣きながら伝えてくる。大学のサークルの飲み会で、酔った先輩が失恋を思い出して突然泣き出した時のことを思い出した。
「とりあえず、外出よっか」
レナに肩を貸しながら慌ててお店を飛び出し、近くの公園のベンチに座らせる。とりあえず、近くの自動販売機で何か飲み物でも買って、後でレナの気持ちが落ち着いたら渡してあげようと思いながら、泣き止むのを待っていた。
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