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公園のベンチに座ってから少し時間が経つと、レナが口を開いた。 「あ、あの……。ピョンピョンストロベリーせんせ……」 「苺花でいいよ」 小学生の頃に勢いでつけてしまったペンネームは嫌いじゃないけど、人に呼ばれるとなんとなく恥ずかしい。 「じゃあ、苺花さんって呼ばせてもらいます」 苺花はうん、と笑顔で頷いた。 「苺花さん、やっぱりどうしても弟子にしてもらうのは難しいですか?」 「ちょっと気恥ずかしいからそういうのは()だな」 「じゃ、じゃあ、作業風景見せてもらうとか……、も難しいですよね……」 「うん、作業してるとこは人に見せるようなものじゃないよ」 苺花が漫画を描いているところなんて見ていても面白く無いと思う。 苺花の返答を聞いて、レナは「そうですよね……」と寂しそうに笑ってから立ち上がり、深々と頭を下げた。 「あの……、今日は初対面なのにいろいろと不躾なことを言ってしまってすいませんでした!」 レナが頭を下げるから、苺花が慌てて首を横に振る。 「そんなこと気にしなくていいよ。謝らないで」 それでもレナは頭を下げたまま続ける。 「今日は本当にありがとうございました……! 苺花さんに会えて、わたしすっごく嬉しかったです! これからもずっと苺花さんのこと応援してますので!」 垂れた前髪から覗く顔がとても寂しそうで、苺花は罪悪感を覚えてしまった。これほどまでに自分の作品を好きでいて、憧れてくれている子をこのまま帰してしまっても良いのだろうか。 「じゃあ、それではーー」 「待って!」 苺花が背を向けたレナの手首を掴んだから、レナが「え?」と小さな声で呟く。
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