2/3
前へ
/12ページ
次へ
「ねえ、玲奈ちゃん、ずっと見られてたら恥ずかしいんだけど……」 作業初日に困ったように笑っていた苺花の可愛らしい笑顔を思い出す。 玲奈は自分の作業よりも、苺花の手元を見ることに集中していた。初めの方は何も違和感なく時間は過ぎていた。 「……うーん、手詰まり!」 宙を見つめて30分ほどじっとしていた苺花は突然つぶやいた。苺花が石になったみたいに固まっていたと思ったら、唐突に立ち上がり、勢いよく両手を床についた。そして、地面を蹴り上げた足を壁に預けて、三点倒立を始めたのだ。 「ま、苺花さん、一体何やってるんですか……?」 「頭に血を行き渡らせないと」 真面目な顔で言うけれど、倒立はむしろ血流が悪くなってしまうのではないだろうか……。苺花はそのまま10分ほど倒立を続けて顔を真っ赤にさせていた。ようやく倒立をやめた苺花は部屋を出ていく。 「どこ行くんですか? 漫画描かないんですか?」 「アイデアがない!」 それだけ言って苺花は外に出る。涼しい風にでもあたりに行くのだろうか。玲奈はついていった。 苺花はうんうん唸りながら歩き、海岸に向かうと、人気の無い砂浜で突然ダブルピースをし出した。 「ま、苺花さん……?」 一体何をしているのだろうかと思って不思議に思って眺めていると、ピースをしている2本指を開いたり閉じたりし始めたのだ。そのまま苺花が横向きに歩きだしたときに、何をしているのかはわかった。 「なんで蟹の真似……?」 蟹の真似をしているという事実だけはわかった。でも、何でそんなことをしているのか、意図はまったくわからない。 「横歩きをしたら普段見えない角度から物が見えるんだよ」 玲奈は、足元をウロウロしている蟹と共にダブルピースで横歩きをしている苺花を見ていた。100歩譲って横歩きがアイデア出しに有効だとしても、わざわざ海岸まで来る必要もなければ、開閉式のダブルピースを添えて蟹の真似をする必要もない。 「玲奈ちゃんもやろう!」 「いや……、わたしは……」 「やろう!」 目を見開いて苺花が誘ってくる。あまりにも有無を言わせない口調だから、玲奈は断ることができなかった。 辺りを見回して、誰もいないことをしっかりと確認する。そして、苺花の後ろに隠れるようにしながら、小さく腰のあたりにチョキを作って、すり足のように少しずつ横歩きをしていく。憧れのピョンピョンストロベリー先生と一緒にすることが蟹の真似でいいのだろうかと玲奈はため息をついた。20分ほど砂浜での妙な動きを終えた後、苺花は突然走り出した。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加