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二人はバスに乗って牛丼屋へ入った。夕食時より少し早い時間帯なのでそれほど混んではいなかった。
箸で玉ねぎをつつきながら和久は悟郎にできるだけ多くひよりについて説明を始めた。
一緒に暮らしているということ、気性が激しいということ、ひよりがこれまで起こした多くの騒動のこと、……
前情報なしに悟郎をひよりに会わせることは準備体操をさせずに海に放り込むことと同じく危険な行為である。しかしこれから始まる例の「特別な」ひよりルールのことだけは和久は決して話さなかった。
聞いているのかいないのか、悟郎はひよりの話に何の反応も示さない。驚きも嫌がりもしていない。
悟郎は牛丼の上に盛られた紅生姜の小山をしみじみ眺め、
「紅生姜って秋の紅葉みたいで心惹かれるなあ」
とのんびり言った。
和久は尚もひよりについて説明を続けたが、悟郎は最後までひよりに関して感想を残すことはなかった。和久は紅生姜に敗北したような気持ちになった。
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