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その後ゲームセンターに行って悟郎が遊んでいるのを眺めていたら、あっという間に帰らなくてはならない時間になった。
二人は駅のバスターミナルへとぼとぼ歩いた。悟郎は自分の乗るはずのバスを見送って、和久のバスを待った。
夜のバスターミナルは寂しい光に満ちている。薄青い蛍光灯の下、話題が見付からず俯く和久に悟郎は言った。
「俺はこの年になるまで誰かと付き合ったことはないから、こういうことを言うのが良い事なのか悪い事なのかよく分からないんだけど。俺はね、ひよりさんと会うのは、どちらかというと、楽しみなんだ。俺は和久と出会ったばかりで、和久の事をよく知らない。それは、知識量的な意味も勿論あるんだけど、どちらかといえば時間的な意味合いの方が強いんだ。俺は結局のところ、二十四歳の和久しか知らない。でもひよりさんは俺よりもずっと前から和久のことを知っている。二十三歳の和久も、二十二歳の和久も、その前の和久もずっと知ってる。そういう人と時間を共有できるってのは俺にとっては有益なんだ」
悟郎の小さな声は静かな夜ではよく聞こえた。
和久が見上げると、悟郎は笑っていた。彼はたまに、一枚の紙が宙に舞うような、掴みどころのない笑い方をする。そして和久は、そんな悟郎の笑い方がとても好きだった。
「ありがとう」
和久がそう言うと、悟郎はまたふわりと笑った。バスは数分も経たないうちに到着した。
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