第3話 水族館

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 和久たちは順路に従って館内を突き進んで行った。  全面に貼られたガラスの向こうで魚たちが悠々と泳いでいる。気の遠くなりそうな水の量だった。どこを見ても水だった。部屋をぐるりと見渡しても、首が痛くなるほど上を見ても、大小様々な魚の影が揺れている。 「きれいだね。地上じゃなかなかこんなにたくさんの魚は見られないんだから、水族館は大したものだよ。こんなたくさんの魚、魚屋さんに行ったって見られない。第一魚屋さんの魚はみんな死んでる」  悟郎はよく分からない事を言って褒め、水槽に手を触れた。  水槽の手前は美しく澄んだ色をしている。照明のせいか水は奥に進むにつれて、だんだんと青を深くしていた。深みを増した青は、何が潜んでいるのか分からない不気味さを醸し出している。深青の塊が照明に解かれて徐々に魚の形になる様はまるで手品のようで面白いが、見ていてぎょっとする。 「予想外の動きをするんだね」 「うん。何しろ生きているからね」  青色の空間の中でたゆたう魚はひとつの模様だった。瞬きをする度に、模様は揺れて、さかさまになる。 「あんた達、つまんない会話するのねえ」  模様の中を赤く大きな魚が割って入ってきたのと同時にひよりが大声で言った。 「何かもっと面白い会話しなさいよ。生き物を見て生きてるんだね、って頭おかしいんじゃないの。あんた達似たような感性なのね」  ひよりは水槽に背を向けて、和久と悟郎の前に立った。魚が見えない。青く光る水槽に、ひよりの豊満な体が切り取られ、黒い影となって重く沈んでいる。 「何してるの」 「あんた達を見てるの。魚見てるよりあんた達二人を見てた方が面白いかと思って」 「さっきつまんないって言ったのに」 「会話はね。そりゃつまんないわよ」  ひよりは淡水魚にはあまり興味がない様子である。ひよりはバンドウイルカ以外見る気はないのかもしれない。機嫌は悪くないにしろ、どこか気だるげに見えた。
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