それは静かに

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それは静かに

 コロナ禍になってから、三年も経過した。密を避け、耐えに耐えたが収束は未だならず。旅行も憚られ、楽しみも減った。なにより、収入が減った。そうして、生きる希望も潰えた。  そんな訳で、富士山を登ることにした。富士山の自然に包まれ、そこで自然の癒しを得る。他に誰も居ない、木々に囲まれた場所。昼間は生き物の声がする場所も、夜になれば凄く静かだ。  昼間の内に準備をしてはいたが、中々踏ん切りが付かなかった。だが、この寒さだ。ただ、大地と一体になっているだけで、体温が奪われて安らかに眠れるだろう。流石は、山だ。冬、それも大寒の夜は酷く凍える。防寒をしないだけで凍死出来そうだ。  コロナ禍になってから、何も良いことは無かった。そして、希望も持てなくなった。ああ、手足の感覚が無くなり、徐々にそれが体の中心に向かってくる。医療ドラマで「耳は最後まで聞こえている」と言われるが、それもそろそろ潰える様だ。ああ、とても静かだ。この感覚、とても安らぐ。  
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