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会社の規定
さて、大分まえにコップの縁に会社勤務の女性の人形が座ったりつかまったりして、随分と人気を集めたことがあった。
その後には猫がぶら下がったりハムスターがぶら下がったりもしていた人気商品だった。
この度、網浜 累子の勤める『NARERUYO会社』の方から一週間自分の好きなものになっても良いと休暇の辞令が出た。これは働き過ぎたときに会社のAIから自動的に発令される。
休暇の間は自分の好きなものになれるのがわが社の売りである。
もちろん自分のまま一週間を過ごしても構わないのだが、せっかく自分以外になれると言うので、結構人気がある。
今の世の中、誰でも好きなものになることができる。ただ、少しお金がかかるのと、その好きなものになっている間に起きた出来事は自己責任だ。
例えば小さいものになっている時にうっかりごみ箱に捨てられたりしたら、見つからなければそのまま消えてしまうことになる。
少しお金がかかるので、会社のお金で好きなものにしてもらえるのは社員の中では人気でこの辞令を貰うために頑張って働きすぎる者もいるくらいだ。
しかし、好きなものになっている間の安全のために、人間以外の物になることを希望する場合は、自分とは別の人間になるか、事故の起きない自宅内で飼われているペットになるかの選択肢が多かった。
網浜 累子は会社からの事例を受けて考えた。
『私、あのコップにぶら下がる会社員の女子になりたいかも。』
『コップからみたら飲む人がどんな風に見えるかを見てみたい。』
そこで、会社の人事に例のコップにつかまったり座ったりする人形になりたいと申し出た。会社側は少し驚いたが、規則なので承知した。
「網浜さん、どこのコップに置かれたいですか?ご希望の所にお運びしますよ。」
「自宅にお願いします。夫には言ってあります。座るタイプでお願いします。」
そうして、網浜 累子のコップに座る人形は自宅に届けられた。
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