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しかし、この状態でどうしろと言うのだろう? 正直顔を合わせるのすら気まずいのに。
「まぁでも、無理やりヤんなくて良かったんじゃない?」
「え? なんで?」
雪哉の言葉に、パンに噛り付いた手を止める。
「なんでって、考えてもみなよ。相手は彼氏持ちなんだろ? もし無理やり犯したとして、それが相手に知れたら……」
「あぁ……確かに?」
「僕、先輩が誰かに……なんて考えただけでも嫌だし。そんな事になったらきっとその相手を許せないと思う」
「オレも。アキラがそんな事になってたら殴り込みに行く自信あるよ。まぁ、アキラに限ってそれは無いと思うけど」
「……そう、だよな」
二人が真剣な表情で話す様子に、和樹は思わず目を伏せる。
「そんな顔するなよ和樹。だから、未遂で済んでよかったんじゃない? 増田先生も相当酔ってたんなら、このまま無かったことにしちゃえばいいよ」
雪哉の言葉に、拓海もうんうんと同意するように何度も首を縦に振る。
「それにしても、増田先生が彼氏持ち……ねぇ。意外だったな」
「ほんっとそれな! マッスーって全然そう言うの興味無さそうだったのに……相手の人、どんなヤツなんだろ」
確かに、透のことを2年近く側で見てきたが、そんな素振りは全然なかった。彼女が居るのか?と聞いた時も動揺する様子も見受けられなかったのに。
「オレ、アキラにそれとなく聞いてみてやろうか? マッスーの彼氏がどんな奴なのか」
「えっ!それはちょっと……。相手が超絶イケメンとかだったら、凹むし。聞かなくていい」
知りたいけど、知りたくない。そんな複雑な思いが交差する。
そんな事を話しているうちに、あっという間に昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴って、三人は慌てて立ち上がった。
「和樹もさ、いつまでもヘタレてないで勇気だしなよ。気まずいまま卒業してもいいのか?」
「う……っそれは嫌だけど……」
教室に戻りながら、拓海の言葉に和樹は眉を寄せて俯いた。
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