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ホモ
砕けた壁の隙間から、微かに日差しが差し込む。木の枝で作られた日時計を見ると、朝の8時だ。今日も、あの男の一日が始まる。
ギイイイイという音を立てて、鉄格子が開く。
「ホモ01、これを片付けろ」
名前も知らない、帽子を深く被った警官の男から、大きなビニール袋に詰め込まれた残飯を賜った。
「ありがとうございます」
ホモ01…神田悠は袋を開けた。
色素の薄い髪の毛を後ろで結び、バドミントンをやっているような、すらっとした体形。
いいや、本当にバドミントンの講師である。
顔は、いわゆる、イケメンだ。
大変整った顔立ちをしている。
彼は、誇りだかきゲイである。
数学教師であり、高校のバド部の顧問である彼は、死んだ幼馴染の面影のある、羽球部の男子高校生を襲い、即通報された。
てんで、警察の手に負えないと判断した東京の刑務所は、彼をここ、網走刑務所へとよこしたのだ。
異常なまでの幼い精神と、天才的なスパコンを超える計算能力を持っている彼は、それでも、刑務所生活を楽しんでいた。
今や、このホモ収容所の、たった一人の住人である。
中には食パンの耳や、得体の知れない肉片、トンカツの衣、味噌汁のワカメ、キャベツや人参、所々牛乳パックの欠片も見える。
なるほど、五大栄養素の揃った、実に健康的な食事だ。
神田はビニール袋に顔を近づける。
べちゃべちゃ、くちゃくちゃと気色の悪い音が響き始める。
嫌なにおいが漂い始め、警官は胸やけがした。
残飯をむさぼる神田を残し、警官は、顔をゆがめて去っていった。
ここからは放送事故なので、割愛しよう。
「終わったか」
例の警官が、日時計が0.5度動いた頃に戻ってきた。
思わずモザイクをかけたくなる様なビニール袋の残骸を、手袋をつけた警官に手渡す。
人差し指と親指の爪で袋を摘むと、警官が言った。
「今日から、お前の後輩が三人入ってくる。くれぐれも騒がないように」
「こう…はい…?」
後輩…後輩……友達!?
「友達がくるんですか?」
警官が怪訝な顔をする。
「やったぁ!おともだち!おともだち!」
雑巾を振り回しながらサンバを踊る神田は、警官が立ち去っていくのに気づいていない様だった。
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